補助金

ものづくり補助金とは、中小企業が生産性を向上させるための設備投資にかかる費用を補助する制度です。この記事では、病院やクリニック、歯科医院でものづくり補助金が使えるのかどうかを解説します。

ものづくり補助金は設備投資を補助する制度

働き方改革、被用者保険の拡大、賃上げ等の制度変更によって、事業運営にかかるコストが増大しています。ものづくり補助金は、中小企業の設備投資を補助する国の事業であり、相次ぐ制度変更に中小企業が対応できるよう資金的に援助することを目的としています。補助金の交付対象は、設備投資によって「新製品・サービスの開発」もしくは「生産プロセス・サービス提供方法の改善」をし、生産性を高める事業とされています。

ものづくり補助金という名称から、製造業に特化した補助金のような印象を受けますが、サービス業や小売業など他の業種も含めて幅広く活用されています。病院やクリニック、歯科医院においても先進的な治療機器の導入による新たな治療方法やオンライン診療等を検討することがあるでしょう。当社にも医療業の方からものづくり補助金についてのお問い合わせをいただきます。

ものづくり補助金は中小企業を対象とした補助金ですが、病院やクリニック、歯科医院は補助対象者に含まれるのでしょうか。

ものづくり補助金は病院やクリニック、歯科医院にも使える?

結論から申し上げますと、ものづくり補助金では、個人事業主は対象、それ以外の医療法人等はすべて対象外です。ものづくり補助金の公募要領には下記のとおり、「財団法人(公益・一般)、社団法人(公益・一般)、医療法人及び法人格のない任意団体は補助対象とならない」と明記されています。

4.補助対象者

イ 【中小企業者(組合・法人関連)】
・「中小企業等経営強化法」第2条第1項に規定するもののうち、下表にある組合等に該当すること。
・該当しない組合や財団法人(公益・一般)、社団法人(公益・一般)医療法人及び法人格のない任意団体は補助対象となりません

ものづくり補助金公募要領(16次締切分)

事業形態による切り分けのため、個人事業主であれば、病院、一般診療所、歯科診療所、助産院、あん摩マッサージ指圧院、鍼灸院、歯科技工所など、医療業全般で、ものづくり補助金への応募が可能です。

病院やクリニック、歯科医院のものづくり補助金採択事例

ものづくり補助金の中で医療業に適すると考えられる「通常枠」の補助金額の上限は、従業員数5人以下で750万円、6~20人で1,000万円、21人以上で1,250万円です。補助率は2分の1で、小規模事業者に該当すると補助率は3分の2に引き上げられます。小規模事業者については、医療業では常勤従業員数20人以下の事業者が該当します。

例えば、1,500万円の医療機器を導入する場合、補助率2分の1の場合は750万円、補助率3分の2の場合は1,000万円(ただし、従業員数5人以下の場合は750万円上限)を補助金として受けることができます。実質的に750万円もしくは500万円で導入できると考えると、設備投資のハードルが大きく下がるのではないでしょうか。

病院やクリニック、歯科医院の採択事例には以下のような事例があります。

歯科医院にCT複合機および診断・治療計画のデジタル化ソフトを導入し、高品質なマウスピースを作成

睡眠時無呼吸症候群の治療にはマウスピースが利用されている。保険適用のマウスピースは患者の費用負担は軽いものの、上の歯と下の歯が固定されているため自由に動かすことができず、一時的にかみ合わせが変わってしまったり、人によっては痛みが出ることがあった。そのほか、治療の進行度によって微調整をすることもできず、一人ひとりにあった最適な治療を行うことはできずにいた。

補助金を活用してCT複合機と診断・治療計画をデジタル化するソフトを導入することで、ネジによる微調整ができ、上下の歯が固定されないオリジナルのマウスピースを製作できるようになった。高精度な3Dデータで口腔内を把握することで診断精度が高まり、治療計画が立てやすくなるとともに、歯科技工所ともデジタルデータでやりとりができるようになったことで生産性が高まった。

歯科医院に口腔内スキャナ、歯科用CAD/CAMを導入し、院内でのセラミック人工歯の製作を実現

虫歯治療では人工歯の装着までに2~3回の通院が必要で、治療の完結までに1~3週間要する。審美性の高いセラミックの人工歯が好まれるが、セラミックは保険診療の対象外で高価なため、保険適用の安価な材質を選ぶ人も多かった。

患者の通院の負担を減らし短期間で治療を終えること、セラミック人工歯を低価格で提供することを目指し、口腔内スキャナ、歯科用CAD/CAMを導入した。装置の導入により、歯科技工所へ外注することなく診療から人工歯の製作までを院内で完結できるようになり、診察から人工歯装着までを1時間超で終えられるようになった。

その他の事例

  • 「フェイススキャナ」「3Dプリンタ」導入で実現、デジタル技術を活用し た1DAYマウスピース矯正の提供
  • 皮膚科の専門性を活かした、次世代の光線治療器による新施術
  • 事前診断とサージカルガイド作製の内製化による革新的なインプラント治療提供体制の確立
  • 小児歯科専門医によるデジタル歯科技術を活用した小児口腔機能向上体制の整備
  • 歯科用顕微鏡の導入で叶える!自由診療の治療領域拡充による収益力向上事業
  • 最先端デジタル技術を活用した医療脱毛サービス提供事業
  • 最先端治療機器導入・提供サービス拡充による競争力のある皮膚科医院へ

(参考:ものづくり補助事業公式ホームページ

病院やクリニック、歯科医院がものづくり補助金を申請する際の注意点

申請者が個人事業主であれば病院等の医療関係者であってもものづくり補助金の申請が可能ですが、事業内容には注意が必要です。事業内容の注意点は以下の2点です。

  • 対象は自由診療に限られる
  • 導入した設備の目的外利用はできない

1点目は、ものづくり補助金を活用できるのは「自由診療に限られる」という点です。保険診療についてはすでに公的医療保険からの補助があるため、公的医療保険からの診療報酬と重複がある事業は補助対象となりません。

○以下に該当する事業者は、補助対象外となります。

(過去又は現在の)国(独立行政法人等を含む)等が助成する制度との重複を含む事業を申請する事業者。

すなわち、補助対象経費の重複に限らず、テーマや事業内容から判断し、本事業を含む補助金若しくは委託費と同一若しくは類似内容の事業(交付決定を受けていない過去の申請を除く)、又は公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬、固定価格買取制度等との重複がある事業を申請する事業者は補助対象とならない。

ものづくり補助金公募要領(16次締切分)

2点目は、ものづくり補助金を活用して導入した治療機器等は目的外の利用が禁止されるという点です。ものづくり補助金の事業計画には、設備投資によってどのような新サービスを開発するか、サービスの提供方法を変えるか等を記載しますが、補助金を活用して導入した設備は計画書に記載した事業にのみ使用することが求められています。上述したとおり、補助金の対象事業は自由診療部分に限られますので、補助金を通して導入した医療機器は保険診療に使うことはできません。

Ⅱ.補助事業実施中の注意事項

⑪事業実施中に、機械装置等購入設備の目的外使用をすることはできません

ものづくり補助金補助事業の手引き(15次締切)

目的外利用については、後日発覚して補助金の返還を求められた事例があります。業種は異なりますが、福岡の食品製造会社において補助金を通して導入した機械を補助金の事業計画とは関係のない食品の製造に流用したという事例です。このようなものづくり補助金特有のルールには注意が必要です。

ものづくり補助金の申請は専門家のサポートを受けることをおすすめ

病院やクリニック、歯科医院等の医療業であっても、事業形態が個人事業主であればものづくり補助金を活用することができます。ものづくり補助金は中小企業の生産性を向上させるための設備投資にかかる費用を補助する制度です。

新たな医療機器の導入による治療の開発やオンライン診療など、設備投資をご検討の際はお気軽にご相談ください。既存事業の状況や検討中の医療機器の特徴をお伺いし、補助金の申請可否を診断いたします。