従業員が退職すると、会社側はさまざまな手続きを行わなければなりません。手続きの内容は多岐にわたっており、うっかりしていると必要な手続きが漏れてしまう恐れもあります。トラブルに発展するのを避けるために、手続きの流れや内容を正しく理解しておきたいと考える企業担当者も多いでしょう。そこで今回は、従業員の退職日までと退職後に分け、それぞれのタイミングで必要となる手続きを具体的に紹介していきます。
従業員の退職日までに必要となる手続き
従業員から退職の申し出があった場合、まずは退職日を決定します。引き継ぎ期間や人員補充の都合なども含めて検討し、従業員と会社側で合意できる退職日を決めましょう。後々のトラブルを避けるために、従業員から退職日や退職理由を明記した正式な退職届を提出してもらうことも必要です。退職後に情報漏洩などが起きないよう、秘密保持などを盛り込んだ誓約書も作成し、従業員に署名・捺印してもらうとよいでしょう。
次に、「健康保険を任意継続するか」「住民税の支払い方法はどうするか」を従業員に確認します。入社日から退職日までに2カ月以上継続して健康保険に加入していた場合、従業員は任意継続制度によって退職後も2年間にわたり健康保険を利用できるのです。継続を希望する従業員は、退職後に自分で健康保険組合などへ申請したり保険料を全額自己負担したりする必要があるため、正しく案内しておきましょう。住民税の支払いは、企業が給与から天引きする特別徴収と、従業員が自分で支払う普通徴収があります。どちらで支払うかによって会社側で行う手続きが変わるので、忘れずに確認しておきましょう。
このほか、場合によっては「退職証明書」や「離職証明書」も必要です。退職証明書は従業員が間違いなく退職したことを証明する書類で、社会保険の手続きなどで必要になるケースがあります。離職証明書はハローワークから離職票を発行してもらうために必要な書類であり、発行しないと従業員が退職後に失業手当を申請できなくなるので注意しましょう。どちらも従業員が希望する場合のみ発行するものですが、スムーズな手続きのため事前に準備しておくと安心です。また、退職金を支払う場合は、退職金から税額を控除するために必要な「退職所得の受給に関する申告書」も提出してもらいましょう。
従業員の退職後に必要となる手続き
従業員が退職した後は、5日以内に社会保険から外れる手続きを行います。従業員が所属する事業所を管轄する年金事務所に、郵送や窓口持参または電子申請にて「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出しましょう。加入する健康保険によっては、資格喪失届を提出する際に従業員とその扶養親族の健康保険証を添付しなければならない場合もあるので、必要に応じて退職までに保険証を回収します。回収できない場合は、代わりに「被保険者証回収不能届」を添付しましょう。
退職日の翌々日から10日以内には、雇用保険の喪失手続きを行います。事業所を管轄するハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を提出しましょう。離職証明書は、上述したように従業員が失業手当を申請する場合に必要な書類です。離職証明書を提出する際は、ほかに勤怠管理簿や賃金台帳、退職届などの書類を添付するので準備しておきましょう。
退職の翌月10日までには、住民税の手続きも必要です。従業員が転職する場合、給与の支払いに空白期間がなければ継続して特別徴収が可能なので「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を作成しましょう。作成後に転職先企業へ引き渡せば、その後の手続きは転職先企業が行います。すぐに転職しない場合は、給与から住民税を天引きできないため従業員が自分で納付しなければなりません。退職時に住んでいた市区町村に「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出して手続きを進めるよう、従業員へ案内しましょう。
退職から1カ月ほどすると、ハローワークから離職票が届きます。従業員が失業手当を申請したり健康保険の手続きを行ったりするときに必要になるので、すぐに従業員の自宅へ郵送しましょう。また、退職から1カ月以内には退職源泉という源泉徴収票を発行します。退職源泉には、退職した年の1月1日から最後の給与までの額が記載されています。同じ年に転職する場合、転職先が給与を合算して年末調整を行うので転職先に提出するよう従業員へ伝えましょう。転職しない場合は、源泉徴収票をもとに従業員が自分で確定申告する必要があります。
必要な手続きを押さえてスムーズな退職を!
従業員が退職すると、会社側も社会保険や雇用保険、年金や税金などさまざまな面で手続きが必要です。従業員が転職するのかどうかによっても対応が変わることがあり、従業員と綿密な打ち合わせを行いながら対応することが欠かせません。複雑な手続きをスムーズに進めるためにも、事前に退職手続きの内容や流れを正しく理解しておくようにしましょう。